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小学校6年生の時に友達から「NANA」の1巻を借してもらい放課後に校庭の隅で隠れて読んだ。

それまで少女漫画を読んできた私には少し大人な世界だった。この頃私にとっても東京はとても遠いところであり、いつかこの町を出ようとまではそのとき考えてなかったけれど、とても憧れを抱いた。

2巻では20歳になった奈々とナナは同じ新幹線で上京する。偶然が重なってふたりはルームシェアすることになる。

あの頃20歳というのは私にはとても大人に見えて、自分で仕事を見つけて、働く、家を借りて、好きな家具をそろえる。自炊もして洗濯も掃除もする。たったこれだけでも十分大人だと感じた。そしてなにより自由だと思った。

 

そんな20歳を思い描いてた私もいざハタチになったとき現実は甘くないなと思った。ひとりではどこへも行けないし、働いても毎日怒られることばかりで、職場にも馴染めず、飲み会でもこれと言った会話もできず、休みの日に友達と出かけることもなく、ましてや好きな人なんてできるわけもなく、私は全然大人をやれなかった。

 

その後私は22歳で上京する。はじめこそは自分で区役所に行き住所変更をし、仕事を決めて、ほぼ毎日自炊もした。お弁当も作り洗濯もする。天気のいい日には布団も干す。だけどそれだけでは大人になれなかった。

飲み会でひとりだけビールが飲めない、お酒もあまり飲まないので酔っ払ったこともない。駅のホームで吐いたなんて話もない。飲み会から帰ってきたコートのにおいが嫌いで仕方ない。

仕事も転職ばかりでたいした職にも就けていない。えらい大人に怒られて、私は誰なんだろうと思った。

私は全然大人をやれなかった。

そうこうしてるうちにあっという間に20代が終わろうとしている。

この9年間を思い返しても私はずっと子供のようだった。

でも大人になりたい、変わりたいと思いながら、変わることを一番恐れてるのは自分自身だった。

 

「えらい大人には内緒だけど」とよく言って教えてくれたとき、私は明らかにえらい大人にはなっていなかった。

だけどそれがうれしくもあった。

大人になったフリでいいと言う人がいた。

もう大人なんだからと言われて悪くもないのに謝ることがとても嫌いだ。

でも大人だからって許すことはないのだと、その人は言う。

誰かに何か言われても気にしていないフリをするのだ。

「人によって考え方や価値観が違うのは当たり前で、優劣をつける必要はない。

地球の外から見たらみんなあなたと同じで、生きてるということは一緒で。

人生には死という終わりが必ずやってくる。

どんな生き方をしても、自分が信じる価値を持ってる限り、そこには優劣なんてなくてみんな平等だ。」

私は今日も大人になったフリをする。

でも大切な人の前ではフリなんかしない私でいたい。