32

今年読んだ「光の指に触れよ」の中でとても残ってる言葉がある。

「きみは何が好きなんだ?何に夢中になってるんだ?」と森介に聞かれた明日子は「絶対のもの」と答える。

「神様みたいで、でももっと冷たくて、硬くて、どうやっても近づけない。遠くの方で光っている。夜の空が曇って月の明かりもなくて暗くて、雲の隙き間からたった一つしか星が見えない時の、その星みたいなの。絶対のもの。」

この言葉がとても好きで何度も読み返した。なぜなら私の中にも「絶対のもの」があったからうれしかったし、この絶対のものがあればきっと大丈夫だと思ってた。

だけどある時、私の中の「絶対のもの」がどんどん絶対ではなくなっていることに気付いた。この感覚は以前にもあった。10代のころ、2年くらい片想いした人がいて、その頃私の中ではその人が絶対のものだった。だけどそれは少しずつ色褪せていき、白でも黒でもなくなって、透明になった。何も思わないし、何も感じなくなってしまった。でもその時はそうなっても大丈夫だった。なぜかはわからない。

ただその絶対のものを失くした後の日々は何も思い出せないくらいそこには何も残っていなかった。どうやって生きていたのか。誰かのために、何かのためにやったことはなかった。何もなかった。

だからなのか今は絶対のものを失うことがとてもこわい。どうにかして繋ぎとめたいのに、今まで無意識に繋いでいたからどうすればいいのかもわからない。

人から絶対をもらったこともあった。単純な私はすぐにその言葉を信じる。それなのにその絶対はあっけなく消えてゆく。それに気付いたとき、もう誰かからの絶対を信じることができなかった。

それでも自分の中にある絶対だけは信じることができる。そしてそれは私だけのものだと思ってる。

だから私は私に「絶対」という言葉を使う。大丈夫。と私は私に伝える。たとえひとりになってもかまわない。私には絶対がまだここにある。