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写真を撮りはじめた頃人は撮らず、目の前の風景や花ばかり撮っていた。撮るときは決まってひとりだった。

 

ある頃から人の写真も撮るようになる。きっかけは他人の撮った写真を見て私だって撮れると思ったから。私は人を撮るとき決して距離を縮めない。たとえ仲の良い子であっても一定の距離でしか撮ることができない。そして見ず知らずの人を撮ることはできない。ファインダーを覗いてもその人のことをなにひとつわかることはできない。

小さい頃から空気みたいに存在感がなく、ただ立ってただけで驚かれたものだ。私は写真を撮るとき空気になる。どうか私には気付かないでほしいと思いながら、シャッターをきる。その人がひとりの時にするであろう表情が好きだ。もちろんカメラ目線の写真も撮るし、そういう写真も嫌いではない。でも私はどこかさみしくてかなしい写真ばかり撮る。

いつかの夢の中で「かなしみの中に立ってるような写真を撮ってほしい」と言われてうれしかったのを覚えてる。その写真を撮る前に目が覚めてしまったけれど私はうれしくて涙が出た。

誰にも会わない日々が続いても私はいつも自分から会いに行かない。そしていつも会わない方を選んでしまう。その結果私の周りには人がいないし、私もそれでいいと思ってる。あまりにもひとりの時間が多かったせいか、それに慣れてしまった。人を撮るときは向き合って撮るべきだと思う。でも私にはそれができない。たとえ仲の良い子であっても私はその子の全部を知らない。そう思うと不安になってしまう。もう二度と会うことはないだろうと思う。

最近はずっと風景や花の写真を撮っている。私が誰かの瞳に映ることはないと思うと少しだけ安心する。もう人を撮らなくてもいいのかもしれない。